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「観光公害」対応策を共有へ G20会合で議論
増えすぎた観光客が地域住民の生活に悪影響をもたらす「オーバーツーリズム(観光公害)」が世界的な課題になっている。観光業は将来有望な成長産業である一方、その副作用も無視できなくなりつつある。25~26日開催の20カ国・地域(G20)観光相会合では観光業の持続的な成長に向け、成功した対応策を世界各国で共有することの重要性を確認した。
UNWTO(国連世界観光機関)の予測では、18年に14億人だった海外旅行者数は30年に18億人と3割増える。昨年3千万人を超えた日本でも訪日客の消費額は年間約4兆5千億円に達する。半導体など電子部品の輸出額を上回り、すでに日本経済にとって大きな位置を占める。
同時に観光客は一部の地域に集中する傾向があり、これらの地域ではごみや騒音、渋滞といった弊害が生じている。スペインのバルセロナでは1992年のオリンピック開催を機に観光客が急増。2017年には不満を抱いた住民らによる反観光デモが発生し、「これは観光ではない。侵略だ」といった声まで上がった。
北海道倶知安町で開いたG20会合でまとめた共同宣言では「安全や混雑、地域との関係性の観点から困難を生み出す」との認識を示した。議長を務めた赤羽一嘉国土交通相は記者会見で「ほとんどの国で地域とのあつれきや文化財の保護といった課題は共通している」と指摘。解決に向けては各国で成功事例を共有することが重要だと説明した。
観光庁はG20会合に合わせ、観光業の活性化や課題解決に貢献する企業のコンテストを開催した。観光ベンチャーのNOFATE(岐阜県飛騨市)は事前予約制の導入と周辺の観光地を推奨する機能を組み合わせ、混雑を平準化する技術を提案した。同社は今年の初めに岐阜県の白川郷でライトアップの完全予約制の導入を支援し、混雑を緩和した。
日本国内でもオーバーツーリズムの影響は出始めている。主要観光地を抱える自治体を対象にした国の調査によると、約4割で観光客のマイカーやバスによる混雑が課題となっているほか、ごみやトイレに関する問題も発生している。
京都・祇園では訪日客が芸妓(げいこ)や舞妓(まいこ)を無理やり追いかけたり、店の敷地内に踏み込んだりする迷惑行為が続出する。京都市などは9月末から観光客にスマホのプッシュ通知でマナーを周知したり、巡視員が注意したりする取り組みを始めた。人気漫画・アニメ「スラムダンク」の舞台とされる神奈川県鎌倉市も今春、写真撮影などを制限するマナー条例を定めた。市内に流入する外部の自動車に課金する仕組みの導入も検討中だ。
オーバーツーリズムの解消には一部の地域に集中する観光客の分散が有効とされる。世界最多の外国人旅行者を呼び込むフランスは体験型観光を充実させることで地方への誘客を進める。
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